サンドロ・ボッティチェリ「受胎告知」

先日のブログで、友達の影響で、エッグテンペラに興味を持つようになった話をしました。その友人のクラスのツアーで、メトロポリタン美術館が所蔵するテンペラ画を、いくつか見に行ったのですが、その後、さらに気になって調べてみたところ、このボッティチェリの「受胎告知」という作品があることを発見。早速、見に行ってきました。ボッティチェリの絵は、ロバート・リーマン・コレクションという美術館の奥の方、今まで入ったことのなかった部屋の片隅に、ひっそりとありました。19センチx31センチという非常に小さな作品なので、場所を調べて行かなかったら、見逃していたでしょう。色合いが春を思わせる作品で、すっかり好きになりました。現代絵画は、価格がサイズに比例することが多いのか、大きい作品が多いですが、こういう作品を見ると、小ぶりの作品の魅力を再確認します。

ボッティチェリ「受胎告知」/Botticelli "The Annunciation"

ボッティチェリ「受胎告知」/Botticelli “The Annunciation”

フィレンツェのサンドロ・ボッティチェリ

ボッティチェリは、ダ・ビンチと同時代の画家で、イタリア・ルネッサンス時代にフィレンツェで活躍しました。若くして、フラ・フィリッポ・リッピのスタジオに弟子入りしたボッティチェリ(この名前はあだ名で、本名は、アレキサンドロ・ディ・マリアノ・フィリペピといいます)。その後、独立して、メディチ家などの富裕層をパトロンとして絵を描きました。

ボッティチェリの絵というのは、パトロンや教会からの注文で描かれたものと考えられるものが多く、この「受胎告知」も、誰かということははっきりしないのですが、信仰心を表現(あるいは誇示する)のために、注文された絵であることは間違いないようです。どの程度テーマやサイズの指定が、お客さんからあるのかはわかりませんが、注文で描くというのは、自分の好きな絵を描くのとは違って、顧客の満足する作品を納品するという、制約があります。その制約の中で、クリエイティビティを発揮するのが、画家として手腕の見せ所となってきます。この点に関しては、前にも書きましたけれど、現代のアーティストにしても、ギャラリーやら時代の要求するものを作って行くということから、開放されている人は少ないと思われます。時代ながらの制約の中で、制作しているという点では、ルネッサンス時代も今も、そう変わりはないと言えるかもしれません。

ちなみに、ボッティチェリは、他にも何点も、受胎告知をテーマに描いています。中でも、「カステッロの受胎告知」というフィレンツェのウフィツィ美術館にある絵は、有名です。どちらの「受胎告知」も、天使ガブリエルが、懐妊したことを告げにマリアのところを訪れるという聖書のシーンを描いています。「カステッロの受胎告知」では、ガブリエルがより女性のように見えます(解説によると男性として描かれているようですが)。また、メトロポリタン所蔵のものでは、ガブリエルとマリアの間の柱があり、そのせいで、二人の間に距離感があります。目をひく共通点としては、メトロポリタン所蔵のものもウフィツィ美術館のものも、ガブリエルは、純潔を象徴する白いユリを持っています。ボッティチェリは、マリアの人生(そして、ヨーロッパ世界)にとっての、一大ドラマのシーンを、想像で描いているわけですけれど、何度も同じテーマで発注されていて、その都度、共通点を残しながら、違ったものを制作できるというのは、やはりすごいです。

ボッティチェリのテンペラ画

私が、メトロポリタンの「受胎告知」で好きなところは、色使いと構図です。テンペラというのは、色あせしない絵具ですので、描かれた当時の色合いが何百年たっても維持されます。また、油絵に比べて、テンペラでは、もっとも暗いトーンと明るいトーンを出すことが出来ません。したがって、色の濃淡の幅が狭くなります。さらに、油絵に比べて、テンペラ画では、透明感のある色彩を出すことが可能です。

ボッティチェリの、「受胎告知」見ると、白や、ピンク、青、柱に使われている青味がかったグレイなど、色のバランスが取れていて、透明感がある仕上がりになっています。実際に見ると、色がうつくしいだけでなく、不思議な温かみがある絵です。ボッティチェリは、同時代のダ・ビンチなどと違って、ほとんどの作品をテンペラで描いています。エッグ・テンペラが、彼の描く世界を表現するのに適した絵具であったのでしょう。

また、この絵では、マリアとガブリエルが、挨拶するために下を向いた瞬間が、描かれていますが、降り注ぐ光の中で、少し距離をとって、お辞儀する二人の様子が、物静かな雰囲気で、ほんと小さな絵なのですが、ずっと見ていても飽きない作品です。

というわけで、本日は、サンドロ・ボッティチェリ「受胎告知」/Botticelli (Alessandro di Mariano Filipepi) “The Annunciation” tempera and gold on board ca. 1485-92についてでした。

メトロポリタン所蔵のテンペラ宗教画についてのブログエントリーはこちらです。

卵の黄身を顔料に加えて描くエッグテンペラは、油絵が主流になる前の中世時代によく使われた絵具でした。メトロポリタン美術館では、イタリアのテンペラ宗教画を、たくさん見ることが出来ます。油絵と違い、色あせることがない卵テンペラ。中世時代の人が見たのと同じ色彩で、絵を見ることできます。

また、現代テンペラ画に興味がある方は、こちらのリンクから、私の友人の先生、ダグ・サフラニックの作品や、彼がどのようにテンペラ画に出会ったかについて書かれた記事がみれます(記事は英語となります)。

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