ウジェーヌ(ユージン)・ドラクロワ「虎」

ウジェーヌ・ドラクロワ 「虎」/Eugène Delacroix "Crouching Tiger" (ink)

メトロポリタン美術館ドラクロワ展

メトロポリタン美術館では、2018年9月中旬より19年1月まで、フランス、ロマン主義の代表的画家、ウジェーヌ(ユージン)・ドラクロワの展示会が開かれる予定です。ルーブルと共同での大規模な展覧会で、今まで一度もアメリカでは見ることが出来なかった絵も展示されるそうなので、楽しみです。9月中旬からの、油絵中心の展示にさきだって、ドラクロワの鉛筆やインク画を集めた小さな展示会が、開かれています。

ドラクロワと言えば、ドラマチックなシーンを表現した、大型作品で知られていて、ルーブルにある「民衆を導く自由の女神」が有名です。下は、メトロポリタン所蔵の、「オービットとスキタイ人」です。

ウジェーヌ・ドラクロワ「オービットとスキタイ人」/Eugène Delacroix "Ovid amongthe Scythians" (oil)

ウジェーヌ・ドラクロワ「オービットとスキタイ人」/Eugène Delacroix “Ovid amongthe Scythians” (oil)

色合いが、濃厚ですよね。ドラクロワの絵画は、色彩と感情の表現が豊かなことで知られています。ドラクロワは、後から続くモネなどの印象派に影響をあたえましたが、彼自身はルーベンスやミケランジェロからインスピレーションを受けて、自身のスタイルを構築しました。少しでも、興味を持ったアーティストについて調べてみると、それぞれの作品やアーティストは、所属する地域(ドラクロワの場合、ヨーロッパ)の芸術の歴史という文脈の中で存在していることがわかってきます。そして、そういった背景や影響を理解してから見ると、同じ絵でも、全然違った風に見えてきたりします。

けれど、アートヒストリーや、歴史的背景をまったく理解していなくても、絵や芸術というものは、見る人に重大な影響を与えることも、また事実です。私が子供のころ、「フランダースの犬」というアニメがあって、主人公のネロ少年が、最終回でルーベンスの宗教画の前で息たえるという、ほんと忘れられないシーンがありました。ネロは子供なので、たぶん、ルーベンスとイタリアルネッサンスの関係とか、ルネッサンスが何かとかは、理解してなかったと思うんです。でも、ただルーベンスの絵のすばらしさに感動して、そしてそこで、残念ながら死んでしまうという、子供向けのテレビのお話ですけれど、やっぱり、絵や芸術作品が理屈抜きに人を引き付けるということを、テレビを見ている子供(そして大人も)が理解してるから、このアニメに、視聴者の心に残るだけの真実味が出てくるんだと思うんです。私自身、それほど芸術の知識もないけれど、美術館に行くのが好きで、色々な絵を「ただ、見る。」という見方でずっと見てきましたし、そういう見方で、芸術作品とコミュニケーションするというのも、全然ありだとおもうのです。

ドラクロワのスケッチ画

さて、前置きが、少し長くなりましたが、ドラクロワの、虎の絵について、書いて行きたいと思います。ドラクロワは、生きているうちから認められて、大変成功した画家でしたが、彼の鉛筆画やインク画は、基本的に人に見せるために描かれたというよりは、どちらかという練習のためや、楽しみのために描かれたもので、そのため、生前はあまり知られることがなく、亡くなった後に大量に発見されました。

このスケッチ的作品の展示会の楽しいところは、ドラクロワがどんな風に絵の練習をしていたかが見れるところです。若いころから、注目されていた巨匠とは言え、もちろん絵がよりうまくなるように練習します。というか、すごく沢山練習のためのスケッチをしていることが、わかります。つまり、油絵(清書)がすごいのは、そのための下書きのための、さらに下書きみたいなものを、紙の上でたくさんしているからなのです。ラファエロの絵を模写したり、人間の筋肉や骨の様子を描いて、よりリアルに腕や足がかけるようにしてみたり。

ウジェーヌ・ドラクロワ「腕、習作」/ Eugène Delacroix "Écorché: Three Studies of a Male Cadaver" (pen ink graphite)

ウジェーヌ・ドラクロワ「腕、習作」/ Eugène Delacroix “Écorché: Three Studies of a Male Cadaver” (pen ink graphite)

筋肉や骨を、人物画のスケッチに描きこむというのは、私の先生も言っていましたが、人物画が上手くなるためには効果的な方法なのです。ただ、私の場合どうしても、筋肉とか骨の様子とか解説したアナトミーの本見てると、気分が悪くなっちゃうという問題があって、なかなか進まないのが問題なのですが。ドラクロワの鉛筆作品を見ると、体を解剖学的に理解して、まず鉛筆でそれを描く練習を重ねることが、上にあるような油絵で人物を描くことに、役立つことが、よくわかります。

ドラクロワと虎

ドラクロワの虎のインク画は、展示会場の入り口に展示してあり、展示会を記念した画集の表紙にもなっています。たぶん、10分とか20分とかで、さっと描いたんだと思うのですけど、虎がかがんで、正面に向かって、吠えている、あるいはとびかかる準備しているところが、リアルに表現されています。13.1センチx18.7センチと、とても小さな絵なんですけど、それほど小さく感じなかったは、躍動感のせいでしょうか。ちなみに、虎とライオンは、ドラクロワのお気に入りのスケッチ対象で、動物園(あるいは見世物小屋のようなもの)に行っては、スケッチしていたようです。解説によると、飼い猫の動きを観察して、それを応用して虎がかがむ様子を描いたということ。つまり、かがんでいる虎をみて、描いたのでなく、他の姿勢をとっている虎をみて、猫の観察から得た知識を利用して、「かがんでいる虎」を描いたということです。

あと、この絵では、ハッチングと呼ばれる斜めに引く線で、体や筋肉の方向を表現しているのですが、線に無駄がないんです。「あ、間違っちゃった。」みたいな線が一つもないのが、すごいです。さらには、太い線と細い線の使いわけることによって、絵にリズムが出ていて、それが躍動感につながっているのです。

ドラクロアと歌川広重

家に帰ってこのブログを書く準備をしながら、日本の浮世絵画家の歌川広重が、だいたいドラクロワと同時期の画家で、彼は猫の絵を描くのが好きだったということを思い出しました。広重が、色々な姿勢をとっている猫の絵を、スケッチ的に描いているものが残っているのですが、ドラクロワの虎の絵と比べてみると、日本とヨーロッパの絵の技法の違いが明らかになって、おもしろいのです。ドラクロワが使っているハッチングは、ヨーロッパのルネッサンスの画家もよく使っている、影や奥行、面の方向なんかを表現する技法なんですが、広重は、もちろん使用していません。日本人の画家は、濃淡をつけて奥行きや面を表現することに、あまり興味がなかったようで、これは、ヨーロッパ的絵画が、それらをとても重要視していたことを考えると、ほんと興味深いことです。これは、日本的絵の描き方が、ヨーロッパ的なリアリズムを追及していなかったということなのだと思うのですが、その背景や理由については、もうちょっと調べてみたいところです。

尚、歌川広重の猫の絵は、早稲田大学の古典籍総合データーベースから、「浮世画譜」を開くと見ることができます。これは、本当にすばらしいデーターベースなんですけれど、画像をこちらに載せるのは禁止ということなので、ぜひみてみてください。

また、このブログでも、猫の絵ではありませんが、歌川広重の絵を紹介していますので、興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

メトロポリタン美術館で、歌川広重の「カキツバタと川蝉」という作品を見る機会がありました。カキツバタは、英語とアイリスとなり、広重作品などの浮世絵を愛したゴッホも描いた花となります。二人のアイリスの絵を、構図、色使いなどと言った点から比べてみました。

というわけで、本日は、ドラクロワのインク画について書いているうちに、ルーベンから「フランダースの犬」、猫から歌川広重へと、話題が拡散してしまいました。私は、西洋的文脈の中で育っていないので、ヨーロッパ絵画を見ても、日本に頭が飛んでしまうというのは、自然の流れと言えば自然なのですが。

そんなわけで、本日の作品は、ウジェーヌ(ユージン)・ドラクロワ「虎」/Eugène Delacroix “Crouching Tiger” (1839)でした。

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