アルブレヒト・デューラーの木版画「6つの結び目」

私は、マンダラ的なものを見るのが好きです。チベット仏教において、お坊さんがマンダラを描いてたりしているのを、写真や映画で見かけたりしますけれど、私が『マンダラ的』と言っているのは、そういった宗教的に意味あるものだけではなく、モザイクやシンボルなど、同じパターンが繰り返されている均衡感のあるデザインが好きだから、ということがあります。特に、マンダラに見られるように、円になったデザインの中にあるパターンというのは、見ていて心が落ち着きます。

先日、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵を、メトロポリタン美術館に見に行ったところ、ダ・ヴィンチの絵の近くに、アルブレヒト・デューラーによる、私にとっては、まさにマンダラ的な木版画が六枚展示されていました。これらの作品のデザインは、元々、ダ・ヴィンチによるものとされており、デューラーが、コピーして木版画としたのです。

こちらは、六枚の内の一つ、「第五の結び目」です。

アルブレヒト・デューラー「第五の結び目」木版画/Albrecht Dürer "The Fifth Knot" (woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第五の結び目」木版画/Albrecht Dürer “The Fifth Knot” (woodcut)

精巧な、デューラーの木版画、デザインはダ・ヴィンチ

アルブレヒト・デューラー「第一の結び目」/Albrecht Dürer "The First Knot" (Woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第一の結び目」/Albrecht Dürer “The First Knot” (Woodcut)

デューラーは、ドイツのルネサンス期の画家です。細かいところまで描かれた植物や動物画、自画像、宗教画などで知られています。本当に、手先が器用なアーティストだったようで、精巧な版画も沢山作っています。私は、デューラーの作品を見ると、その細部まで描きこまれた様子に、感心してしまいます。例えば、こちらの兎の水彩画、このように毛をリアルに表現するには、どれほどの、忍耐力が必要か考えと、気が遠くなります。

アルブレヒト・デューラー「第二の結び目」/Albrecht Dürer "The Second Knot" (Woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第二の結び目」/Albrecht Dürer “The Second Knot” (Woodcut)

今回紹介している、「六つの結び目」の木版画も、大変、細かな作業が要求される作品です。針金か紐のようなものが、結び目を作りながら模様を形成しているのですが、全ての針金(紐)において、光と影の部分が表現されています。また、結び目は、どちらが上になっているかが、ちゃんとわかるように作成されています。現在であれば、このようなデザインは、コンピューターで作るのでしょうが、16世紀には、もちろんそのようなものはありません。つまり、ダ・ヴィンチも、それをコピーしたデューラーも、手を使って描いたということです。

アートと商業用デザインの境目

アルブレヒト・デューラー「第三の結び目」/Albrecht Dürer "The Third Knot" (Woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第三の結び目」/Albrecht Dürer “The Third Knot” (Woodcut)

デューラーが見たオリジナルは、レオナルド・ダ・ヴィンチによるデザインを、(他の人物が)エングレイビングという手法で版画にしたものです。デューラーは、イタリアを訪れた時に見たと言われてます。よほど、気に入ったのでしょう、木版画バージョンを作成しました。ダ・ヴィンチ作の「六つの結び目」は、残存している数が少ないのですが、大英美術館が所蔵しており、こちらから見れます。ダ・ヴィンチの「第六の結び目」と比べてみると、デューラーは、周りの葉の部分と、中央の円がつながったデザインへと、変更していることがわかります。

アルブレヒト・デューラー「第四の結び目」/Albrecht Dürer "The Fourth Knot" (Woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第四の結び目」/Albrecht Dürer “The Fourth Knot” (Woodcut)

ダ・ヴィンチは、オリジナルの「六つの結び目」をミラノにて作成しましたが、当時、ミラノでは、このタイプのデザインが、上流社会で流行していました。食器や、本のタイトルページ、はたまた銃身の飾りといったものに、使われていたのです。つまり、ダ・ヴィンチは、今でいう商業的に使われることを念頭に、「六つの結び目」を作成したのでしょう。今では、商業用デザイン、またイラストレーションと、スタジオ・アートは、大学での専攻から、職業表記にいたるまで、まるで違う分野のように取り扱われています。これは、デザイナーと、イラストレーターとアーティストは、違う職業とされていることからも、わかります。けれど、ダ・ヴィンチにとっては、そのような垣根は、まったく意味のないものであったということです。

アルブレヒト・デューラー「第六の結び目」/Albrecht Dürer "The Six Knot" (Woodcut)

アルブレヒト・デューラー「第六の結び目」/Albrecht Dürer “The Six Knot” (Woodcut)

一事が万事そうというわけでは、ありませんが、現代、ファイン・アートという分野は、イラストレーションや、商業デザイナーに比べて、一段上と見られる傾向があります。例えば、あるアーティストは、自分の作品を「絵画というよりは、イラストレーション」と形容されて、非常に腹を立てたという話を、聞いたことがあります。このアーティストは、イラストレーションだと言われて、侮辱されたと感じたのです。けれど、何百年もたてば、良いものは、今、イラストレーションと呼ばれようが、ファイン・アートと呼ばれようが、このダ・ヴィンチのデザインのように、受け継がれていくはずです。こういった、職業や分野の細分化は、哲学者のミシェル・フーコーが言うように、現代社会の特徴で、これからも進んでいくのでしょうが、必ずしも、アーティストの精神にとっては、プラスにならないようです。

というわけで、本日は、アルブレヒト・デューラー「6つの結び目」/Albrecht Dürer “The First Knot” to “The Sixth Knot) before 1521、 (オリジナルデザイン、レオナルド・ダ・ヴィンチ)について、でした。

参考: https://www.metmuseum.org/blogs/now-at-the-met/2015/albrecht-durer-the-fifth-knot

レオナルド・ダ・ヴィンチのチョーク画についてのブログ・エントリーはこちらからどうぞ!

レオナルド・ダ・ヴィンチは、スフマートという、影の部分から光の部分に向かって、滑らかなグラデーションを、「ぼかし」で作るテクニックを、「モナ・リサ」といった有名作品で用いました。メトロポリタン美術館所蔵の、チョーク画でも、この技術が使われています。非常に繊細な印象の絵です。

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