葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」/Hokusai Kastushika "The Big Wave" (Polychrome woodblock print)

消費される北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

ニューヨークに住んでいると、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を、街で、見かけることが結構あります。まず、あたたかい季節になると、「神奈川沖」がプリントされたTシャツを着ている人を見かけますし、この前はカフェの壁に、インテリアとして大きく描かれているのを見ました。著作権の心配をする必要がないデザインということもあるのでしょうが、やはり、北斎の絵がデザインとして優れていて、万国共通、多くの人を引きつけるのだと思います。Tシャツは、色々なデジタル加工を加えたものがあります。家にも、アーバンアウトフィッターというお店で、かなり前に購入したTシャツがあって、こんな感じです。

葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」Tシャツ

この、シャツのデザインは、後ろに日章旗のようなものが加えられているのが、私としては微妙なのですが、「大きい波」と日本語で書かれているのところが、気に入ってます(といっても、家族のもので、私が着るわけでは、ないのですが)。「大きい波」って見たままで、なかなか日本人感覚では思い浮かばない一言ですよね。別に、冗談のつもりではなく、「神奈川沖」が英語圏では”The Big Wave” と呼ばれているのを、そのまま訳しているだけと思われます。

現在、欧米で北斎ブームというニュースを日本語メディアで読みましたが、ブームというのは必ず終わりがあります。また、繰り返し使われるデザインというのは、使い古される運命にあります。北斎の絵のオリジナルとしてのクォリティーが薄れることはないとしても、消費の対象としては流行遅れになるということはあるでしょう。一時期、漢字の入れ墨が、アメリカで流行になっていましたけれど、今は、ブームは去っているように思います。同じように、「ビックウェーブ」Tシャツも、数年後には、街で見かけることもなくなるのでしょう。

けれど、浮世絵というのは、もともとが庶民が気楽に購入するためのものですし、版画は、何枚も刷れる芸術ですので、消費されるための美術で、現在の欧米でのブームは、リバイバルと考えれば、「消費されている」と目くじらをたてることもないのかもしれません。もし、北斎が、21世紀のアメリカでTシャツにプリントされている「神奈川沖」を見ることが出来れば、「本望」と言うかもしれません。

そういう私も、今まで、加工してプリントされた「神奈川沖」ばかりを見て、実物を見たことがなかったので、ぜひ見てみたいと思っていました。先日、メトロポリタン美術館のアジアウィングに行った時に、たまたま展示されていて、見ることが出来、すっかり興奮してしまいました。

「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を見る

「意外と小さいな」、というのが第一印象。Tシャツのプリントより縦は小さいです。大きくカフェの壁に描かれた壁画バージョンを見たあとなので、最初は、拍子抜けした感じになりました。ルーブルで「モナ・リサ」見た時も、スペインで「ゲルニカ」見た時も、想像していたより小さくて驚いたことを思い出します。

それにしても、これだけ有名な作品にしては、他の作品と変わらない感じで、展示してあるので(座ってよく見れるようにはなっていましたが)、周りにいる人たちが、ちっとも気づかず通り過ぎていました。せっかく、人気の作品が展示してあるのに、もったいないなと思ったので、何人かに「これ、有名な作品だよ。」と、私が言うと、寄ってきて写真をとる人たちはいましたけれど、ほとんどの人が私ほど感動している風もなく、「ふーん、これ、有名だよね。」みたいな感じでした。同じく消費の対象となりがちな作品でも、「モナ・リサ」やウォーホールのものだと、もう少し違う反応なのですけれど。やっぱり、メトロポリタン美術館やニューヨークという場所は、ヨーロッパ文明が中心という伝統の土地柄ですから、残念ですけれど、仕方ないことと言えます。

というわけで、他の人達は、あまり北斎に興味がないようなので、私は、気兼ねなく、一人で前に座って、十分に北斎を堪能することが出来ました。この「神奈川沖」が展示されていた部屋には、他の北斎画「富嶽三十六景」や広重作品も展示されていて、すっかり一人で盛り上がって、他の部屋を見た後にも、また戻って来て、見ていました。

先ほど、この「神奈川沖」は、アメリカでTシャツにプリントして売られているのは、デザインが優れているからと言いましたが、それは、構図のすばらしさから来ているところが大きいのでしょう。「神奈川沖」の構図については、ネット上で、色々な方が解説されていて、読んでいると興味深いです(例えば、こちらの赤とんぼさんのブログなど)。北斎は、コンパスと定規を使っていたそうです。そういうことを知ると、絵を描くというのは、情緒的なものであると思いがちですけれど、上手く描ければ数学でも科学でも、どんどん使えるものは使っていくという姿勢が、大切なんだと教えられます。ダ・ヴィンチも科学者でしたもんね。

北斎「神奈川沖浪裏」の色使い

構図の妙と波しぶきの細部が動きを生み出す北斎の傑作ですけれど、色使いは、実はシンプルで、基本、濃淡の青、白と、薄い黄色(ベージュ)の三色のみが使われています。背景については、かなり色あせていたので、元の色がよくわからなかったのですが、もしかしたら、もう一色別の色が使われているのかもしれません。

青については、水色と濃い藍色のような色があり、北斎の版画には、江戸時代に新しく日本に入ってきた、プルシアンブルーが使われているということですので、美術館に訪ねてみないと、はっきりとはわかりませんが、薄い方の色は、プルシアンブルーかもしれません。富士山と波、船に乗っている人達の洋服には、同じ色が使われているようです。構図と絵がしっかりしていれば、色使いはシンプルでも、迫力のある作品になるということが、わかります。江戸時代の版画は、絵師と彫師、摺師が分業で製作しており、色の指定は版元が行ったりしていたそうなので、北斎自身がこの色の配分を決めたかどうかは分かりませんが、青のグラデーションと白の対比が美しいことに、違いはありません。「神奈川沖浪裏」のタイトル通り、波の裏側まで迫力持って、表現されています。

それにしても、ピカソの青と言い、青という色は、ほんと重要な色ですよね。先日、サージェントの水彩画を見ていたのですが、やはり青の使い方が素敵でした。北斎の浮世絵見ていると、青の力を感じます。

「神奈川沖」では、暖色(黄色)も使われていますが、同時に展示されたいた「甲州石班沢」は、青と白の2色使いとなります。「神奈川沖」に比べると落ち着いた雰囲気の作品ですけれど、よく見ると、後ろの富士はシンプルに描かれているのに対して、漁師が立っている岩や波の様子は細かく描きこまれていて、前面に行くほど、動きがあるという、とてもおもしろい作品です。絵の真ん中上部には、ほとんど何も描かれていないというのは、大胆な構図だと思います。

葛飾北斎画「冨嶽三十六景 甲州石班沢」/Hokusai Kastushika "Kōshū Kajikazawa"(Polychrome woodblock print)

葛飾北斎画 「冨嶽三十六景 甲州石班沢」

さらに、この「東海道金谷の不二」!他の「富嶽三十六景」比べると色使い、内容ともにポップで、現代的です。一コマ漫画みたいですよね。こちらも、メトロポリタンに展示されていました。

葛飾北斎画 「冨嶽三十六景 
東海道金谷の不二」/Hokusai Kanagawa "Tōkaidō Kanaya no Fuji" Polychrome (woodblock print)

葛飾北斎画 「冨嶽三十六景 
東海道金谷の不二」

それにしても、北斎画、ほんと、見ていて楽しいです。日本に何十年も住んでいたのに、見のがしていたなんて。今度、東京行く機会があったら、ぜひ、北斎が展示されてる美術館に行きたいです。ブームが去っても、忘れずに、これは実行したいです。

というわけで、本日は、葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」/Hokusai Katsushika “Under the Wave off Kanagawa, also known as The Great Wave, from the series Thirty six Views of Mount Fuji” ca. 1830-32 についてでした。

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