中世 テンペラ宗教画「聖母と子供と天使」など

卵テンペラ

友人がとっている卵テンペラクラスが、メトロポリタン美術館で、テンペラ画ツアーをするというので、私も参加してきました。デッサンのクラスで知り合ったその友人は、テンペラ画にすっかりはまっていて、以前、タッパーに入った卵の黄身を私に、「これ使うんだよ。」と見せてくれたことがあります。その時、私は、なんで油絵や水彩画があるのに、卵なんか使って絵を描いているんだろう、と思ったものです。けれど、今は、彼女のクラスを見学させてもらったり、今回のツアーに参加したおかげで、だいぶん、卵テンペラというものが、わかってきました。

卵テンペラについて説明するには、私たちが、通常使うチューブに入った絵具というものが、どういう風に作られるかから、始めて行くと、わかりやすくなります。絵具というものは、色を出す粉末の顔料(英語ではピグメントと言います)とバインダーを混ぜ合わせて作られます。油絵具は、顔料と油分(乾性油)が基本的な材料となりますし、水彩絵具は、顔料とガムアラビックを混ぜて、作られています。卵テンペラには、顔料に卵の黄身(と水)を加えて、絵を描いていきます。卵の黄身は生ものなので、加えた状態で保存するわけにはいきませんので、絵を描くパレットの上で顔料と混ぜていきます。友人のクラスでは、ガラスのパレット上で、パレットナイフを使って混ぜる方法をとっています。卵の黄身というのは、非常に乾きが早いもののようで、卵テンペラは、アクリル絵具のように数分で乾いてくるようです。テンペラには、もう一つ、ミルクを加えるカゼイン・テンペラという種類もありますが、美術館などで、テンペラとある場合は、ほとんどの場合、卵テンペラを差しています。卵テンペラは、西洋美術の歴史の中では、フレスコと共に非常に古いもので、ローマ時代にはすでに存在したと言われます。

メトロポリタン美術館は、かなりの数のテンペラ画を所蔵していますが、今日は中から中世イタリアのテンペラ宗教画を、いくつか紹介したいと思います。

色あせることがない卵テンペラ絵具

Berlinghiero 「聖母と子供」/"Madonna and Child"

Berlinghiero “Madonna and Child”

卵テンペラ絵具は、油絵と違って、乾きが早く、色あせることがないのが、特徴です。ということは、1230年代に描かれたこの「聖母と子供」も、描かれた当時の色彩で見ていることになります。

この絵をよく見てみると、子供のサイズが、現実ではありえな状態(子供が抱えられるサイズにしては、年を取りすぎている)となっていますが、これは、中世時代は、遠近法や解剖学などの、絵を描く上で役に立つ科学が、発展する以前であることを考えると、理解できます。また、中世も早いうちは、感情表現を絵画に取り入れられることは、あまりなかったため、聖母の顔が、どちらかというと、いかめしい厳粛な感じになっています。私は、この絵では、聖母の繊細な指と、頬のほんのり淡い色合いが、気に入っています。

中世以降、テンペラが油絵に取って代わられたのは、油絵が、テンペラでは出せない色の濃淡を、出すことが出来るためであったのが、主な理由でした。けれど、20世紀以降、特にアメリカで卵テンペラのリバイバルが起こります。アンドリュー・ワイエスやポール・キャドマスといった画家の、20世紀テンペラ画はメトロポリタンでも見ることが出来ます。テンペラ画の魅力は、その発色感であると友人は言っていましたけれど、たしかに、上の「聖母と子供」でも、油絵の重厚さはありませんが、色使いが繊細で、奥行きのない構図にマッチしています。

下の4つの絵は、15世紀初頭にロレンゾ・モナコという画家が描いた、聖書に登場する預言者、ノア、デービッド、モーゼス、エイブラハムの絵ですが、洋服の色や台座の色が鮮やかで、美しいです。

ロレンゾ・モナコ「ノア」「デービッド」「モーゼス」「エイブラハム」/Lorenzo Monaco "Noah" "David" "Moses" Abraham"

ロレンゾ・モナコ「ノア」「デービッド」「モーゼス」「エイブラハム」/Lorenzo Monaco “Noah” “David” “Moses” Abraham”

テンペラ宗教画の細部

テンペラ絵具は乾きが早いのが特徴で、そのせいで、細い筆を使った細部の描きこみが、時間を置かずに行えるということがあります。下の、ピエトロ・デ・ドメニコ・ダ・モンテプルシアーノ(Pietro di Domenico da Montepulciano)の、「聖母と子供と天使」という絵では、聖母は、芝生の上に座っているのですが、芝生と聖母の洋服、さらに聖母が座る布の模様が、非常に細かく描かれています。

ピエトロ・デ・ドメニコ・ダ・モンテプルシアーノ「聖母と子供と天使」/Pietro di Domenico da Montepulciano "Madonna and Child with Angels"

ピエトロ・デ・ドメニコ・ダ・モンテプルシアーノ「聖母と子供と天使」/Pietro di Domenico da Montepulciano “Madonna and Child with Angels”

先ほどの、「聖母と子供」に比べると、時代が進んで、こちらは15世紀に描かれたものなので、聖母の顔が少し柔らかく、表情も豊かになっています。

中世時代、アーティストが描く作品と言えば、宗教画が主であったことでしょう。これは、好きなものを描くという現代のアートの感覚からは、随分違ったものであります。ここで紹介しているような宗教画を見ると、芸術家たちは、美しい色や細部を描きこむなどと言った方法で、それぞれの技術や才能を発揮しています。中世のアーティスト達が、たまには好きな絵でも描いてみたいと思ったかどうかは分かりませんが、雇われて言われたものを描くという中にも、細部の筆つかい、色彩感覚といった場所で、芸術家達がアーティスト魂を発揮しているのを感じます。

けれど、考えてみれば、現代のアーティストと言え、好きなものを本当に描けている人というのは、意外に少なく、売れるものや注文などに沿った作品を作っていくことを、余儀なくされている人も、たくさんいるでしょう。そういう意味では、アーティストのあり方は、今も昔も、それほど変わらないのかもしれません。

というわけで、本日は、卵テンペラを使って描かれた、メトロポリタン美術館所蔵の中世イタリアの宗教画について書いてみました。

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