オーギュスト・ロダン「キューピットとプシュケ」

ロダンとクローデル

80年代に、彫刻家ロダンの恋人で、彫刻家のカミーユ・クローデルが、ロダンとの関係ゆえ気が狂ってしまうという内容の、「カミーユ・クローデル」という映画がありました。随分前にみたので細部は忘れてしまいましたけれど、その映画では、ロダンは、女性に対して身勝手なところのある芸術家として描かれていたように記憶しています。この映画でクローデルを演じていたのは、イサベル・アジャーニで、彼女は「アデルの恋の物語」という、フランソワー・トリフォーの映画でも、愛ゆえに気が狂ってボロボロになるヴィクトル・ユーゴーの娘を迫真で演じていました。当たり役のアジャーニの演技力もあって、私はどうしても、ロダンの彫刻を見ると、映画「カミーユ・クローデル」を思い出さずにはいられません。もちろん、映画がクローデルとロダンの関係(二人は実際、恋人だったのですが)を正確に描いているかはわかりませんけれど、特にこの彫刻「キューピットとプシュケ」などは、飛び立とうとする男性(キューピット)にすがりつく女性(プシュケ)を題材にした作品ということで、映画でみた二人の関係を思い起こさせます。

オーギュスト・ロダン「キューピットとプシュケ」/August Rodin Cupid and Psyche Marble 

ロダン「キューピットとプシュケ」

ギリシア神話の「キューピットとプシュケ」では、美しい女性プシュケが、ギリシア神の一人であるキューピット(ギリシア語ではエロス)と恋人関係になるのですが、キューピットはプシュケに会うのは夜の間で、彼女に顔を絶対に見せず、さらに彼女に「僕の顔を見てはいけない。」と警告するんです。けれど、ある日、プシュケは警告を破って、キューピットが眠っている間に灯りを照らして、彼の美しい顔を見てしまいます。このロダンの彫刻は、顔を見ないという警告をプシュケが破ったことが原因で、キューピットが、プシュケのもとから飛び立つ瞬間を、表現していると思われます。下の写真を見ていただけると、プシュケは、キューピットが飛び立とうとするのに、必死でしがみついている様子がわかると思います。また、キューピットもプシュケを愛しているため、二人はしっかりと顔を寄せ合ってます。

オーギュスト・ロダン「キューピットとプシュケ」/Auguste Rodin "Cupid and Psyche"

ロダンのリアリズム

この彫刻は、現在(2018年8月)、先日のブログでとりあげた、ルドンの「パンドラ」の近くに展示してあります。どちらの作品も、ギリシア神話が題材に使われており、さらに女性のヌードの作品なのですが、比べてみると、随分表現のされかたが違っています。ロダンの作品では、物語の中の瞬間が表現されており、そこには登場人物の感情があり、さらに私たちは、彫刻を見ることによって、次の瞬間何が起こるのかということを想像することが出来るのに、ルドンの作品では、そういったことは、ほとんど表現されていません。

オディロン・ルドン「パンドラ」(油絵)/Pandora by Odilon Redon (Oil on Canvas)

オディロン・ルドン 「パンドラ」

このルドンの絵では、パンドラは壺を抱えて立ってはいるものの、次の瞬間、彼女がどのような行動をするのか(首を縦にするとか、歩き出すとか)ということは、この絵を見ただけでは、まったく想像がつきませんし、そのことは、この絵を見る上でそれほど重要なことではないと思われます。

対して、ロダンの「キューピットとピプシュケ」見ていると、この次の瞬間、キューピットがピプシュケを置いて飛び立つのか、プシュケはキューピットにあと一瞬触れていられるのか、それはわかりませんが、どちらにしても次の瞬間を想像することが出来るのです。そして、私たちは、次の瞬間を想像できるから、目の前に彫刻として表現された瞬間が、大切な瞬間だと知ることが出来るのだと思います、

オーギュスト・ロダン キューピットとプシュケ(大理石)/Auguste Rodin "Cupid and Psyche" Marble

ロダンのこの彫刻は、二人(一人の人間と一人の神)の肉体が、ある一瞬にどのような形をとったか(正確には、どのような形をとりえたのか)を表現したものですが、同時に二人の感情の凝縮の表現でもあります。肉体がとる姿勢や感情は、次の瞬間には別の形に変わっていくのが必然のものなのですが、それ上で、この彫刻は「この瞬間は確かにある」ということ私たちに見せています。私は、それが、ロダンのリアリズムのように思うのです。もちろん、ここで言うリアリズムというのは、実際に、プシュケとキューピットが存在して、このようなシーンが歴史上に存在したという意味でのリアリズムではなく、もし、このようなことが存在したとしたら、どのような形で存在したかをリアルに表したという意味でのリアリズムですが。

というわけで、本日の作品は、オーギュスト・ロダン「キューピットとプシュケ」/Augueste Rodin Cupid and Psyche (before 1893)でした。

文中で紹介した、オディロン・ルドンの「パンドラ」についての記事は、こちらからどうぞ。

オディロン・ルドンの油絵「パンドラ」は、日本の芸術の影響を受けて描かれた、ギリシア神話のおける最初の女性、パンドラの絵。美しい色彩を使って描かれた絵ですが、パンドラの壺から撒き散らせれる災いを、暗示しているのかもしれません。

また、同じくキューピットの彫刻ですが、ローマ時代に作られたものについて興味がある方は、こちらからどうぞ。

メトロポリタン美術館で、胴体部分だけが展示されているエロス像。古代ギリシアの有名彫刻家、プラクシテレスの作品の、ローマ時代に作られた複製とされています。なぜ、大理石の白や、筋肉の表現や曲線美を美しいと感じるのかについて、考えてみました。

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