アンリ・ルソー 「ライオンの食事」

作品やアーティストに興味を持つきっかけというのは、色々あるものです。美術館やギャラリーで、目に留まって好きになる作品もあれば、授業でならったことやインターネットで見たことが、きっかけになる場合もあります。何回か作品を見たにも関わらず、あまり好きではなかったけれど、何かの機会に、もう一度よく見てみて、見方が変わるということもあったりします。本日、紹介するアンリ・ルソーの作品は、ニューヨークの近代美術館で見たのですが、絵本の挿絵的な感じが、今一つ興味を持てずにいました。ところが、先日、メトロポリタン美術館のゴッホの絵が飾ってある部屋を、うろうろしていた時に、めちゃくちゃおもしろいガイドさんが、この「ライオンの食事」という絵について話しているのを聞く機会があり、ルソーという画家に興味を持って、作品を、もう一度よく見ることになりました。

私は、どうも、アーティスト独自のストーリー性が打ち出された絵が、それほど得意ではないらしく、その意味でルソーの作品には、複雑な反応があったのですが、よく細部を見てみると、次々に「これはどうなってるんだろう」と、アリスのウサギの穴に入ったような気持ちになる、不思議かつ奥深い作品であることを、発見しました。

アンリ・ルソー「ライオンの食事」/Henry Rousseau "The Repast of the lion" (Oil)

ルソーのジャングル

先ほど、美術館のガイドのおかげで、このルソーの絵に興味を持ったと言いましたけれど、私は、メトロポリタン美術館でボランティアが行うツアーに参加していたわけではなく、たまたま、この絵の近くを通りかかった時に、ケヴィンというガイドさんのグループがいて、話を聞いたらおもしろかったのです。普通、ガイドというのは、作品の説明をして、あれば質問の答えたりするだけなんですけど、このケヴィンは、冗談を交えて説明するし、ツアーの参加者に、自分から質問したりするので、参加してる人達も、後ろから聞いてる私も、ルソーの説明の10分位の間に、何回も笑っちゃうというガイドさんだったのです。私は、美術館は、自分の好きに歩きたいと思って、今までツアーに参加したことはないのですが、今度参加してみようかなと思ました。

ケヴィンの説明によると、ルソーは、この絵をメキシコのジャングルとして、描いたと言うことです。けれど、ルソーは、一度もフランスを出たことはなく、メキシコにも行ったことは、ありませんでした。絵を描く時には、植物園の植物や、子供向けの絵本の動物を、たよりにしていたのです。行ったことないところを描くのは、別に全然問題ないと思いますが、『メキシコにライオンっていない』のです。また、この絵には、バナナの木が描かれているのですが、バナナのなりかたが、実際とは、逆なんです。そういうわけで、この絵は、ルソーが思うメキシコを描いたもので、実際のメキシコとは、全然違う世界なのです。ちなみに、ケヴィンは、「メキシコにライオンいたら、壁作るよね。」と、ドナルド・トランプの、メキシコ国境に壁を作るという公約を揶揄した冗談で、笑いをとっていました。

ケヴィンのグループが去ってから、私は一人でこの絵を見てみたんですけれど、バナナのなる方向以外にも、この絵は現実離れした、不思議な要素が結構あるのを発見しました。例えば、ライオンの顔が体に比べてやたら大きい(そして、顔の向きが不自然)とか、バナナと房がライオンの顔より大きいとか、花のサイズがやたら大きい、などなど。その後、再度、友達の11歳の子供と一緒にメトロポリタンに行ってこの絵を見た際、その辺りのことを彼女に言うと、「絵なんだから、現実通りじゃなくて、いいやん。」と軽く言われてしまいました。確かに。

もう一つ、不思議なのが、後ろに白く描かれている半円です。太陽だと思いますか、月だと思いますか?私は、空の色の感じから、太陽だと思ったのですが、私の後ろで見ていた人が、「ムーンライト」と言っていたので、月と思う人もいるようです。ルソーは、たぶん、この絵がどういう場面を描いたか、ちゃんとストーリーを持ってると思うのですが、しっかりとは伝わってこず、それが不思議な雰囲気を作り出してます。

素朴派

ルソーは、日本語では素朴派と訳される、naïve artistです。英語でナイーブというと、肯定的な意味ではなく、「世間知らず」「考えが甘い」などの、良くない意味を指します。ルソーは、正統な美術教育を受けたことがなく、遠近法やサイズの取り方を知らないため、ナイーブと呼ばれるのです。けれど、絵が下手かというと、けっして、そうではありません。以前、水彩画のクラスの先生がルソー好きであったため、ルソーのジャングルを模写するということがあったのですが、茎や葉の部分の影の付け方などは、しっかりと立体的に見えるように描かれています。ルソーのこの絵は、現実離れした部分(サイズ感覚など)と、リアリズムが混在しているのです。それに、不思議なストーリー性があいまって、忘れられない印象を残します。

ルソーは、アカデミックな画家(美術教育を行けた画家)としての評価を、望んでいたようです。けれど、作品が主要な美術館に所蔵され、美術史に名前を残すアーティストとなった今も、彼は、『素朴派=アカデミックでない』と、形容されています。美術業界の、学歴主義のようなものを象徴するエピソードであると思います。ピカソ、カジンスキーなど、同業者にルソーのファンがいなければ、見出されることはなかったかもしれません。実際、ピカソは、再利用目的で売られている使用済みキャンバスの束から、ルソーの絵を発見したと言います。

ルソーの作品は、「どのように描かれた絵が、『良い絵なのか』」、また「美しい絵とは何か。」「絵は美しい方が、良いのか。」「美術とエリート主義」などということについて、考えさせられる作品です。

というわけで、本日は、アンリ・ルソーの「ライオンの食事/ Henri Rousseau “The Repast of the Lion” Ca.1907について、でした。 

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