フィンセント・ファン・ゴッホ 「アイリス」

家から一番近くある美術用品屋は、BLICKというチェーン店なのですが、そこのレジに並んで、何となく周りを見回していた時、カウンターに並べられている商品の中に、耳の形をした消しゴムがあるのに目がつきました。「耳消しゴム」、英語では、”Ear Eraser”ということで、軽い洒落なんでしょうが、 それだけではなく、商品を宣伝するための箱には、耳を切り取った後に包帯をしたゴッホの肖像画が、プリントされています。つまり、ゴッホが、ゴーギャンとの人間関係で、精神的にショックを受けて、自分の耳を切り取ったというエピソードを、ネタにした商品なのです。アーティストが、切り取った耳の形をした消しゴムを使うというのは、あんまり良い気持ちしないなぁと思っていたのですが、その次に行った時にも、同じところに陳列してあったので、レジ前に置くほどの人気商品なのかもしれません。ゴッホの作品は、世界中の人に愛されていますが、彼が精神病院に入院したことや、耳を切り取ってしまうなど、自分を傷つけたという悲しい話も、商品になる位、よく知られています。

私は、ゴッホの作品を見るときに、そういった苦悩を表すエピソードや、最後には自殺してしまったことを、やはり思わずにはいられません。けれど、彼の作品は、そういったこととは対照的に、生きるということが力強く表現されているため、その不思議な対比に戸惑い、アート作品というのは、創作した人の魂(というものがあるとすれば)を、どのように映しているかということを考えたりします

ゴッホの作品では、風景画、人物画、自画像など、ブログで書いてみたいことは、色々ありますが、私は、花の絵が一般的に好きなので、今日は、メトロポリタン美術館で見れる、ゴッホの「アイリス」という作品について、思うことなどを書いていきたいと思います。

ゴッホの「アイリス」

フィンセント・ファン・ゴッホ「アイリス」(油絵)/Vincent van Gogh"Irises" (Oil)

ゴッホが、絵を描き始めたのは27歳の時で、それから37歳で亡くなるまでの、10年の間に、なんと850点の油絵と1300点のスケッチや水彩画を描いたのです。生きている間に、作品を売って生活することが可能であったわけではなく、弟のセオに生活の援助をしてもらっていました。画家になる前は、仕事が続かず、両親の元に帰って暮らしたり、今の日本でいうところのニートと言えると思います。絵の道を選んでからは、描くことに没頭していたのは、その作品数から明白ですが、有名になるのは、亡くなった後の話です。

アーティストは、同じ主題や対象を何度も題材にするということがありますが、ゴッホにも、糸杉などそういった主題が、いくつかあります。アイリスの花も、ゴッホが好んで描いた題材の一つで、このメトロポリタン美術館所蔵の作品以外にも、いくつか、同じタイトルの作品があります。どれも、花の青と葉の緑が美しい作品です。このアイリスの絵は、ゴッホが、精神病院に1年間滞在して、退院する少し前に描かれたもので、同時期の描かれた作品としては、花瓶に飾られたバラの絵があり、同じくメトロポリタン美術館で見ることが出来ます。「アイリス」に似た色使いの作品ですよね。

フィンセント・ファン・ゴッホ「バラ」/Vincent van Gogh "Roses" (Oil)

ゴッホの色使い

ゴッホが、精神病院で療養中に描いた、「アイリス」と「バラ」は、使われている色が似ているのですが、両方とも、実は、元々ピンクが使われていたのです。時間がたって、色があせたため、現在は白に近い色になっているのです。「アイリス」では背景、「バラ」では花の部分です。背景がピンクだとすると、「アイリス」は、かなり違う印象の絵になると思いませんか。

ゴッホは、色彩理論を使った色使いで知られていて、今回紹介している絵で言えば、色あせた部分のピンクと、青がかった緑は、おおよそ補色の関係にあるのです。補色とは、青、黄、赤の原色を等間隔に円の中に置いて、それぞれ隣にある色を混ぜて出来る色を、スペクトラムにした色相環と言われる円上で、向いにある色のことをいいます。補色関係にある色は、効果的に配置された場合、ハーモニーを作りだすと言われます。

ゴッホは、色彩理論を本で学んでいて、色の選択は、意識的に、意図をもって行っていたようです。彼の絵では、補色関係にある色を一つの絵に配置していることが、よく見かけられます。けれど、理論だけで描いていたのではなく、やはり、色彩感覚という、理論を超越したものも、養われていたとは思われます。なぜなら、理論だけでは、効果的に色彩を配置することは出来ないからです。理論を知っていたことで、それを使用、応用して、より冒険出来たということなのかもしれません。

また、「アイリス」と「バラ」では、補色関係にある色だけではなく、同系色も効果的に使われいます。「アイリス」では、葉の緑と机の青緑、「バラ」では背景の緑と花瓶の色が、同系色なのですが、花瓶や机が、白に近い色があることで、目を緑から白に移動させるため、緑ばかりの印象にならず、色のバランスがとられています。ここまで、考えてくると、「アイリス」の背景が、ピンクだと、ほんと鮮やかな絵になることに、再度、気づきます。でも、色あせた今の絵も、素敵だと思いませんか。

ゴッホ「アイリス」の構図について

「アイリス」は、元々、色使いが、とても鮮やかな絵であったということもありますが、活き活きとした印象を残すような構図を、使って描かれているので、生命力を感じさせる絵となっているのです。花瓶に生けられた花というのは、動かない静物ですけれど、ここで言う静物は生きている植物なので、その「生」を、動きのある構図で表現しているのです。ゴッホの構図を、簡単に、分析してみたいと思います。

まず目につくことは、キャンバスの左右に、余白がないところまで、花と葉が広がるように描かれているということです。そして、キャンバスの下部から、机は水平方向に、その上に花瓶が垂直方向、花瓶の中から色々な方向にのびる花と葉が描かれています。こういった構図が絵の中に動きが作り出し、活き活きした印象を、見ている人に与える結果になるのです。

フィンセント・ファン・ゴッホ「アイリス」構図

この四方に腕を伸ばすように、描かれたアイリスの絵を見ると、ゴッホの生きることを肯定する意欲のようなものを、感じるのです。それゆえ、この絵が描かれた年が、彼が亡くなった年であるということを知ると、なんともいいようのない気持ちになってしまいます。

この絵が描かれた時には、ゴッホは確かに生きていたのであり、この絵の前に立つ私たちも、その瞬間には確かに生きているということを、「アイリス」は表現していると言えるかもしれません。

というわけで、本日は、フィンセント・ファン・ゴッホ「アイリス」/Vincent van Gogh “Irises” 1890についてでした。

ゴッホの人生や作品についての参考資料:

ファン・ゴッホ美術館(基本情報のみ日本語あり) https://www.vangoghmuseum.nl/en

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