<ウィリアム・ケントリッジ展>考えるためのアート作品

ニューヨークで絵の授業をとるようになってから、ウィリアム・ケントリッジを好きな現役アーティストとしてあげる、若手(30代から40代前半)の先生に、何人か出会いました。そういう先生たちというのは、10代からずっとアーティストになると決めて、美大に行って、その後、実績をあげて個展なども開いている中堅アーティスト達となります。彼らは、向上心と自信ゆえでしょう、それなりに厳しい目をもって、他のアーティストの活動を見ています。そういった若手のアーティストに、尊敬される活動を続けているケントリッジに、私も注目していて、ネットで作品を見たりしていたのですが、今回はじめて、マリアン・グッドマン・ギャラリーで作品を、ライブで見ることが出来ました。

Marian Goodman Gallery

ウィリアム・ケントリッジの木炭画

ウィリアム・ケントリッジは、南アフリカを拠点とするアーティストで、木炭ドローイングを使ったアニメーションや、オペラの演出、彫刻作品など、ジャンルにとらわれず創作活動をしています。色々な、ジャンルの作品を作っていますが、アフリカのヨーロッパによる植民地化、あるいは白人におけるアフリカにおける黒人支配といったことを、一貫して主題としています。けれど、作品は、ヨーロッパの植民地支配を糾弾するという単一的なメッセージのみではなく、ヨーロッパとブラックアフリカの微妙な関係についても、表現するものとなっています。

ケントリッジの作品の多くは、木炭を使って紙の上に描かれたものを基盤として、それを使ってアニメショーンとしたり、オペラに使用したりするという手法をとっています。木炭(チャコール)というのは、非常に古い絵を描く道具で、人間の文明の始めに洞穴に描かれた絵にも使われていたものです。そのせいか、木炭で描かれた絵というのは、風合いがやわらかく、どこかなつかしい感じがするものです。今回の展示を見ていると、本当に、木炭画の良さというのを再確認します。

それにしても、ケントリッジ、絵が上手い。

ウィリアム・ケントリッジ「Wozzeck Operaのためのドローイング」/William Kentridge "Drawing for 'Wozzock Opera'"

ウィリアム・ケントリッジ「Wozzeck オペラのためのドローイング」/William Kentridge “Drawing for ‘Wozzock Opera’,” Marian Goodman Gallery

この作品を見て、私は、原爆が落ちた後の広島の写真を思い出しました。

ウィリアム・ケントリッジのアートの哲学性

先程、ケントリッジが、若手のアーティストに尊敬されているという話をしましたけれど、その理由を考えてみるに、一つに、まず技術的に絵が上手いということがあると思います。さらに、ジャンルを超えた意欲的な創作活動ということも、理由でしょう。また、ケントリッジの作品は、きわめて政治的なことを主題としていますが、メッセージが一面的でなく、見ている人の思考を促すものとなっているということがあります。トランプが大統領になった直後、トランプの顔が描かれた大判の油絵作品を、チェルシーのギャラリーで見かけましたけれど、そういう感じだと、メッセージが単純になってしまって、作品として奥行きがなくなってしまうのです。その点、今回のケントリッジ作品は、見ている人(私)に、「アフリカと第一次世界大戦ってどういう関係なんだろう」などと、独自のリサーチや考えを深めるチャンスを与えるような内容となっています。

こちらで見れる、インタビューで、ケントリッジは、今回の個展について「大きなアイディア(考え)を伝達するというよりは、作品を作る過程で、疑問をさがそうという試みです」と、述べています。つまり、正しいと考えるアイディアを伝えようとするのではなく、アーティスト自身が問いを探しながら創作活動をすることで、作品を見る人も、ある問題にたいする好奇心を刺激され、結果、作品が、疑問を提示する手助けをすることになるのでしょう。ケントリッジの、「正しい」とされる見方に対する懐疑心は、今回の展示会のタイトル、「Let Us Try for Once 」にも表れています。これは、ダダイズムのトリスタン・ツァラによるマニフェストにある「Let us try for once not to be right(一度で良いから、間違うことに挑戦させてください)」からとられています。ケントリッジは、正しいと思うことの主張が、暴力や戦争がつながっていることを踏まえて、そういった主張の危うさを指摘しています。

ケントリッジが、アートとして美しいというだけでなく、背後にある重層的な思考を表現する作品を作れるのは、彼がアーティストとして、技術が優れているだけでなく、哲学、美術史、歴史などについて教養が深く、その上に、慎重にアートや哲学、政治について思考を重ねているからです。ケンブリッジの作品を見ていると、思考やインテリジェンスという意味で、悪い意味でなく、挑戦されているように感じます。そして、あぁ、ビジュアルアートには、こういうことも出来るのかと教えられます。

というわけで、本日は、マリアン・グッドマン・ギャラリーにおける、ウィリアム・ケントリッジの個展「Let Us Try for Once 」について書きました。

こちらの、ギャラリーのホームページのリンクから、インタビューや作品が見れます。

また、ケンブリッジが扱っているテーマである、アフリカとヨーロッパの関係を主題に作品を作っている、イギリス人アーティスト、インカ・ショニバレをこちらのブログ・エントリーで紹介しています。

「ウィンド・スカルピチャ― (SG)1」は、セントラル・パークの南側入り口に、2018年期間限定で設置されている、インカ・ショニバレの彫刻です。アメリカで、移民に対する取り締まりが強化される中、多様性を肯定するメッセージを発しているこの作品について、紹介しています。
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