インカ・ショニバレMBE 「ウィンド・スカルピチャ― (SG)1」

このブログは、私、トム、がメトロポリタン美術館で、展示作品を見ながら考えたことを書いていくのが、メインの趣旨なのですが、今日は、セントラル・パークにパブリック・アート・ファンドの作品として、展示されている、イギリス人アーティスト、インカ・ショニバレMBEの作品について書いてみたいと思います。

インカ・ショニバレ ウィンド・スカルピチャ―/Yinka Shonibare "Wind Sculpture"

パブリック・アート

「ウィンド・スカルピチャ― (SG)1」は、セントラルパークの南端、東側59丁目の入口に、2018年の春から10月中旬まで、展示されています。この辺りは、お買い物で有名な通り5番街に近く、かなり人通りの多い地区となります、紙袋をいくつも持った観光客、乳母車を押して歩く付近の住民、観光用の馬車と馬、レンタル自転車の勧誘の人たちやらで、混み合っているので、上の写真を撮る際にも、なるべく人が写らないようにしたのですが、彫刻のかげに、レンタル自転車勧誘サインを持っている男性の足が見えています。

「パブリック・アート」というのは、「公共の場所にある芸術作品」という意味で、作品を見るために訪れる美術館やギャラリーにある作品とは対照的に、作品を見るためにそこにいる人たち以外にも見てもらえるように、公共の場所に展示されている作品です。パブリック・アートには、色々な意義や目的があるとは思いますが、一つには、アート作品が、特別な人が特別なところで見るものではなく、誰もが見ることが出来て、普段の生活の中で、話したり考えたり出来る対象となる、ということがあると思います。パブリック・アートは、市や州が、税金を使って、アーティストに依頼することも多いですが、「ウィンド・スカルピチャ― (SG)1」は、パブリック・アート・ファンドという私立団体が、インカ・ショニバレに、発注して制作されたものです。

この作品は、西アフリカで洋服の生地として人気のある、色彩豊かなろうけつ染めの生地(バティック/batik)が、風になびく様子を、表現しています。パブリック・アート・ファンドにサイトによると「目に見えないものである風が、風があることで起こる効果を表現することで、見えるようなる」というパラドクス(逆説)を表現している、ということです。

インカ・ショニバレとバティック

インカ・ショニバレは、イギリス人の大変成功したアーティストです。1962年、イギリス生まれですが、西アフリカのナイジェリアで子供時代を過ごし、その後イギリスに帰って芸術を専攻、2つの国、文化を生きて来たという経験から、人種、階級というものは一体何なのかと言ったことをテーマに、インスタレーション作品、彫刻を制作しています。ショニバレの作品には、バティックが使用されることが多く、このセントラルパークのウィンド・スカルピチャ―が、第2世代(Second Generation SG)と名付けけられているのは、彼が、以前に、やはりバティックが風になびく様子を彫刻にした一連の作品を、発表しているからです。

バティックは、私も、アメリカに来て、西アフリカ出身の女性が、ドレスにしたてて、よく着ていることから興味を持った、非常に美しいプリント生地です。以前に、セネガル出身の男性が経営するアフリカ衣料品屋さんで、洋服を見ていた時に、色々教えてもらおうと思って、「これは、アフリカから輸入しているんですか。」と聞くと、「違うよ。たいてい、インドから来てる。」、「こういう生地は、オランダ人がアフリカ向けに売り始めたことで、広まったんだよ。アフリカのもんじゃないよ。」と言われて、驚いた記憶があります。旧ヨーロッパ植民地に現在住む女性たちが、好ん洋服に使う生地が、実際は西アフリカで作られているものでも、元々アフリカのものでもない(元は、インドネシアなどの東南アジアののもの)。ヨーロッパの人たちがアフリカで商売するために、輸出されたことから、西アフリカで受け入れられ、今ではインドなどでも作られて、アフリカに輸入されているという複雑な状況なのです。しかし、こういう事情は、あまり知られておらず、アフリカからの移民が多いアメリカやイギリスでは、バティックは、「アフリカの生地」と認識されていることが多いのです。ショニバレの作品は、そういった矛盾を内在した素材を使用することで、アイデンティティーというものにおける矛盾、または文化アイデンティティーというものの、不確実性を表現しているものと思われます。

日本人である私たちについて考えると、私たちが「日本の〇〇」と言ったり考えたりしているものの多くが、本当に「日本のもの」と言えるかは、あやふやであることは、よくあります。例えば、私は、日本のシュークリームは、とてもおいしいと思って、「やっぱり、日本のシュークリームは一番だよね。」などと言ったりしますが、シュークリームが、実際、「日本の」お菓子かというと、そうではないと思うんのです。けれど、外国から来た人が、シュークリームを始めて日本で食べた場合、シュークリームは日本のお菓子だと思う人もいるかもしれません。また、私も、日本で販売されるいるようなシュークリームが、他の場所でも、シュークリームとして売られているのか知りませんし、実際には、私が「日本のシュークリーム」と言うとき思い浮かべるシュークリームは、20世紀に日本で発達した日本独自のものと言っても、問題ないのかもしれません。そう考えると、シュークリームが、「日本のもの」かどうか、段々わからなくなってきます。西アフリカで洋服に使われるバティックは、元々西アフリカでも、西アフリカで作られているのものでもないけれど、西アフリカ女性に広く受け入れられるいることや、その独特のデザインが「アフリカの生地」と認識されているという意味で、「西アフリカのもの」って言えないこともないと言えます。日本のシュークリームとバティックでは、複雑さの背景は全く違いますが、共通しているのは、『〇〇という文化に属しているもの』というラベルがあったとしても、そのラベルは案外不確実なラベルで、どういう状態をそのラベルがさしているのか、わかりにくいということです。同様に、『私は○○である』というアイデンティティーも、実際には、どういう状態を意味しているのかは、不確かであることが多いのです。

どんなメッセージを、受け取るのか

去年から、アメリカでは、メキシコとの国境に壁を建設することを公約としたドナルド・トランプが大統領になって、移民に対す取り締まりが、どんどん強化されています。トランプは、アフリカまたはハイチなどから移民のことを、「『くそだめ』から来ている移民」と発言して、マスコミなどから非難されていましたが、このような発言もある程度の支持を得ているのは、彼が当選したことからも明らかです。アメリカ人の中に、「もう、移民(非白人移民)には、来てほしくない。」という風に考える人が、ある程度の人数はいるのは間違いありません。そんな中、このショニバレの作品は、ナショナリズムに疑問を呈し、多様性というものに対して肯定的なメッセージを、セントラルパークから発信しているのです。

もちろん、この「ウィンド・スカルピチャ―」を見る人の中には、アフリカを『くそだめ』と呼ぶ大統領を支持する人たちもいるのは当然であり、そういう意味で、美しい作品でありながら、挑戦的な作品でもあるわけです。

というわけで、本日は、セントラル・パークに2018年、期間限定で展示されている、インカ・ショニバレMBE 「ウィンド・スカルピチャ― (SG)1」/Yinka Shonibare “Wind Sculpture (SG2) I” についてでした。

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